+--[19] 停 電--+

 香港に着いた。

 飛行機が着陸準備に入ると左右はビル・ビル・ビル。
今は新空港へ移ってしまっていてこの体験ができないが、啓徳空港はそんなドキドキする場所だった。
無事着陸した瞬間に欧米人の人たちが立ち上がって感謝の拍手をしていた。
夜だし、雨が降っているし、3月だというのに蒸し暑いし、
機内食ばかり食べておなかいっぱいだし、とにかくホテルへ直行する。

 日本からは1泊しか予約をとっていないのだが、旅友と相談して日にちを延ばすことにした。
もっと安い宿があるにはあったが、女の子二人で泊まるようなところではなく、
ましてや旅友は私よりずっと年下なので、危険な目にさらすわけにはいかない。
ここがぎりぎりのライン、というホテルをとった。

 部屋の中は結構広く、古いが決して悪くはなかった。あることを除いては。
それは、フロントから何気なく手渡された青い紙切れだった。

 ……停電のお知らせ。

 へ? ホテルに泊まって停電を経験することになるとは思ってもみなかった。
フロントの人間にしてもそれが自分達の都合ではなく電力会社の都合であるから全然申し訳なさそうな態度をみせない。
ムシムシ暑い夜を過ごせるか不安に陥りながら停電の夜を待つことになった。

 それでも昼間は精力的に街へ出た。

 パンダバスという現地のツアーに参加し、日本語ガイド付で主要な観光名所も見てまわった。
まだ香港返還前だったので、返還記念のTシャツが数多く出ており、そんなシャツも買った。
中国へのビザも申請した。
広州へは夜行フェリーで行くことにした。チケットも手に入れた。
停電は書いてあったほど長くはなく、思っていたより酷い目にはあわなかったが、
体力・気力ともに充分なときの出来事でよかったと思った。

 それよりも、フェリーのチケット売場と乗り場が全然違う場所にあることに気付かず
もう少しで乗り損ねるところだったことのほうが大問題だった。

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