+--[23] 日本人、日本人--+ |
家に風呂がないので、嫂子が銭湯へ連れて行ってくれることになった。
荷物を準備してついて行く。
雨が降り出したので傘を借りて歩いていく。
最初に行ったところは長々歩いて行ったのだが、休みで閉まっていた。
次に向かったところは、家の裏手にある銭湯。
建物の様子からして最初に行ったところの方がきれいだったのでわざわざそこまで
連れて行ってくれたのだろう。
しかし、ここも閉まっていた。
閉まるのが早いので、明日早い時間にあらためて来よう、ということになった。
歩く道歩く道、皆が振り返る。
見たことのない人間であること、体が大きいこと、服装からして上海人ではないこと、
あちこちから同じ言葉が聞こえてくる。
「日本人、日本人」
普通話ではribenrenと発音するのでわかっていたのだが、上海話では違うので
最初何を言われているのかさっぱりわからなかった。
適切な書き方がわからないのだが、日本では「サパニン・サパンニン・ザプンニン」
などと表記されている。
これを延々言われ続けるのだ。
道を歩いても「日本人」、トイレへ行っても「日本人」
そして銭湯へ行っても言われることになる。
翌日、路地裏の銭湯へ出かけたら、出るまでに指を何度折ったかわからなくなるぐらいに
「日本人」という言葉を耳にした。
翌日もその翌日も。
今ではそこまで言われることはないのだろうが、当時はまだ珍しかったのかもしれない。
悪意はない、と知っていても気持ちのいいものではなかった。
おまけに、当時はホームスティが簡単にできる時代ではなかったのに、
滞在していることを公安に届けるまでに数日あったので、
最初は人の往来の多い時間には表のドアから出ることができなかった。
こそこそしもって「日本人」と言われるのだから、まるで犯罪者のようだった。
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