+--[29] パンダがみえた--+

 結婚を機に引越しをした。

 4階建てのマンションの4階。エレベーターは、無い。
その前に住んでいたワンルームマンションの荷物は引越業者に運んでもらったが、
実家からの荷物は家族に手伝ってもらって運んだ。
大好きだったTHE CHECKERSのコンサートへも行った。
実家の床にフロアシートを敷くために重い家具を動かしたりもした。

 だが、年が明けてしばらくして、それらのことはしてもよかったことだったのか、
と不安にさせる事件が起きた。

 そのお告げを私は夢で見た。

 小さな小さなパンダが見えたのだ。
何をしていたわけでもないが、とてもとても小さなパンダが見えた。私を呼んでいた。
笹に囲まれていたようにも思えた。

 その夢を見て、ハッと目が覚めたときに、「あ、赤ちゃん」と思った。

 その通りだった。

 予定日は8月29日。夏の赤ちゃんだ。
嬉しかったが不安でもあった。仕事はバブルの絶頂期、彼はまだ上海。
生活の基盤はまだ無い。

 とりあえず私は自転車に乗るのをやめ、母子手帳をもらった。

 結婚前と同様に毎日綴る手紙には赤ちゃんの話を少しずつ盛り込んだ。

 医師の確認を取って減量も意識した。
私はとても太っているので、1kgでさえも体重を増やすわけにはいかなかったのだ。
特別なことはしなかったが、中毒症にだけはかかるまい、とそれだけは意識し続けた。

 1日でも早く査証がおりるようにと何か手立てはないかと模索もした。

 会社の赤帽さんの知り合いに、ある代議士の運転手をしている人がいるということで
政治家を頼るのは不本意だったが口利きしてもらえるかもしれないという話に
期待をしたこともあった。

 しかし、2ヶ月過ぎてもなしのつぶて。

同居しての新婚生活も送らぬうちに子供だけはすくすく成長していた。

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